2月15(土) (記憶にございません)
僕はバドを辞めてから予備校に通っている。
本日も青年に家にこそっと練習を見に行くが、やはりだるくなって早退。本格的に引退のようだ。
それでも明日の大会は気になるので、再びこそっと見に行くかな。
<第9回:愛すればこそ >
「この物語はある学園の荒廃に戦いを挑んだひとりの生徒の記録である。
バドミントン界において全く無名の弱体チームがこの生徒を迎えた日から
わずか数年にして全国優勝を成し遂げた奇跡を通じて
その原動力となった愛と信頼を余すところなく活字化したものである 」
2月16日(日) (雨のち曇りのち晴れ)
予備校の帰り。勉強道具でいっぱいのキュートな白色トートバッグを肩にかける。
今はもう汚れで白色なんて言えたものじゃない。その後、ハンズで購入したハイセンスな黒色のニット帽を頭にかぶる。
今はもうフケで黒色なんて言えたものじゃない。その後、普段着用しないスタイリッシュなジャージを身にまとう。
こんな格好で街中をうろつくのはナンセンスなのだろうか。とにかく、これで準備完了だ。
そう、僕は変装を試みたのだ。結果は完璧である。
誰も僕ってわかりっこない。僕は緑スポーツセンターへ急いだ。
外は雨が激しく、いつも以上に気を遣って運転しているからだろうか?疲れから信号待ちで眠ってしまう。
眠気覚ましにアクセルをぐっと踏み込む。その時、眠気が一気に覚める光景が僕のキュートな眼球に飛び込んできた。
隣車の運転手が左手で巧みに化粧をしながら、右耳と右肩に携帯を挟んで何やら相手に叫んでいる。
その状態でハンドルを握って運転している。しかもミッションなのだ。
しかもテレビで字幕の映画を見ているではないか!
まさに神業だ。僕はジャンプを読みながら、携帯でメール文を作成しながら、ミッションを運転していたことがあるが、
それよりも一動作多いのだ。緑スポーツセンターに到着。僕はこそこそっと建物内に忍びこんだ。
すぐにてつ先生を発見。変装に絶対の自信がある僕はためらいもなく、先生に近づく。すると・・・、
「あ!サンマークさんだ!来てくれたんだ。」
なんと僕をサンマーク・ジョンソン(コーチ)と間違えているではないか!う〜ん。たまらない。なんとも光栄な出来事だ。
一応、僕ということがばれなかったので、変装は成功のようだ。今から僕はサンマークさんになりきるぞ。
自分でない自分でいれる。こんな刺激的なことはない。ふと、他のメンバー達の表情を眺める。
みんなとっても生き生きしている。ちぃ、なんでぇなんでぇ、生き生きしちゃってよぉ。
そんなにバドが楽しいのかよぉ。ふん。気分を害された僕は、さっさとその場を離れた。階段を降りる。
試合会場に簡単に侵入できることを知る。すぐさま侵入。僕は地獄耳だ。
その瞬間、トライのメンバーがいる観客席から
「なんかサンマークさん、怪しくない?」 「あの風貌はやばいよ。絶対注意されるよ。」
と警告を受けていることを知ったのだ。そのわずか3分後。。
「あんた選手じゃないよね?でてけよ。」
と試合中のおっさんに警告を受ける。これで本日2回目の警告のため、退場。
僕は今の変装を諦め、新しい変装を試みた。双子の弟になりすますことにしたのだ。
変装後、柱の影からコソッと皆を観察した。
僕には一卵性双生児の弟がいる。フェイスもボディもボイスもキャラも全てがそっくりなのだ。とにかくキモイ。
しかし、先日、我がバド部のメンバーに双子の弟を目撃されたのだ。大失敗。
だから本日はばれてしまうのではないかと不安いっぱい。と、その時、本物のサンマークさんが現れた。
カッコイイ!!
流行に流されることなく、常に独自のスタイルを貫き、トライではカリスマ的存在である彼は魅力満載だ。
彼の周りに人が群がる。僕は嫉妬した。彼は6年以上、スタイルに変化がないらしい。なのにこの人気ぶり。
皆、とっても楽しそうにバドの会話をしている。いや、間違いなく楽しんでる。
バドを辞めた僕はそれを複雑な気持ちで眺めていた。しかし、だんだん胸が締め付けられる。
僕は昔バドに恋をしていた。あの楽しかったバドとの思い出が蘇ってきてしまったのだ。
いかん!僕は気を紛らわすべく皆から試合会場へと視線を移した。
そこで見たものはまぶしくてまぶしくて直視できないくらい輝いているおじさん、おばさんの笑顔だった。
バドを心から愛しているのがすごく伝わってくる。愛される数よりも愛する数の方が多い僕はいつだって悲しみばかり。
でも皆はバドを愛して、バドに愛されているんだなあ。その中に一際輝く人物がいた。
何故か試合会場のベンチに腰かけているサンマークさんだ。僕はこのチャンスを逃さなかった。
携帯のムービー機能を起動させ、サンマークさんの挙動を保存。永久保存ムービーだ。
皆さんも是非今度ご覧になっていただきたい。彼は何を考えているのだろうか?そのとき、彼と視線が合ってしまった。
恥ずかしくてすぐに目をそらす。その後、恐る恐るベンチに目をやると、、もう彼の姿はなかった。
それ以降、彼の姿を見た者はいない。
やはり、カリスマだ。
弟に変装していたのだが、彼にはおそらく見破られたであろう。
ふと、窓の外に目を向けると、さっきまで降っていた雨はあがり太陽が姿を現していた。
館内放送が流れる。トライの試合が始まるようだ。僕はやはり柱の影から観戦。
みんな負けてしまえ!ありったけの汚れた思いで雄叫びをあげた。試合が始まる。てつ先生もばし先生も頑張っている。
他のメンバーも同様だ。雄叫びが全く届いていない模様だ。応援も必死だ。
こんちきしょう!皆なんでそんなに必死なんだよ。
どうしてそこまで一生懸命になれるんだよ。なんでだよ。なんで…。僕の雄叫びは徐々に静まっていった。
そう、なんでかなんてわかってる。そんなことはわかってるさ。皆、心からバドを愛しているからなのはわかってるさ。
僕だって愛しているはずなのに、ライバル達との差が明確になってきて逃げ出した弱虫なのもわかっている。
僕はじっと試合を見つめた。
すごく白熱した良い試合だ。飛び散る汗がキラキラ輝いている。それはバドを愛する者にしか流せない汗なのだろう。
体が震えてきた。人一倍涙もろい僕は、どうしても涙を堪えることができなかった。いろんな思いの込められた涙だ。
僕はその場を無理矢理にでも立ち去ろうとした。意地っ張りな僕は、やはり素直になれないのだ。
僕の雄叫びのせいだろうか。決勝でトライは敗れさり準優勝のようだ。僕は車に戻るために、階段を降りた。。。
駐車代の精算をしようとカードを財布から出したとき、後方から聞きなれた元気な声が響き渡る。
貴T:「あれー?来てくれてたんだ!さっきの試合見てた?
すごいよ準優勝だよ。ねぇねぇ、あっちにみんないるから行こうよ!」
貴乃花のTシャツを着た女の子は、僕を引っ張っていく。
僕:「いいよ、もう帰るところなんだから。」
と、抵抗しても全く怯むことなく引っ張る。彼女の摺り足は、貴乃花そっくりなのだ。僕の変装は意味がなかったようだ。
そのまま、皆の前まで寄り切られた。
皆:「なんだよー、来てたなら何で声かけないんだよ。皆、お前のこと心配してたんだぞ。
あんなにバドが好きだった奴が簡単に辞めれないはずだぞ!お前がいないと、やっぱり部に活気がないし、
楽しくないし、寂しいよ。なあ、戻ってこいよ。皆、それを心から臨んでるから。
意地張らずにまた皆で花園目指そうぜ!」
言葉が出てこない。顔も上げれない。顔上げると泣いてるのがばれてしまうから。
声を出すと泣いてるのがわかってしまうから。
皆:「俺たちもね、お前から大切なものを学んだんだよ。バドを純粋に愛する、楽しむ心をね。もっとうまくなりたい、
試合に勝ちたいっていう気持ちが強くなりすぎてて、もちろんそれも大事なことなのだけれど、
俺らがバドをやってる原点を見失いそうになっていたんだ。ありがとう。」
僕も精一杯頑張って口を開く。どうしても涙声になってしまう。
僕:「ううん、こっちこそありがとう。心の底からうれしくて泣いたのは、どれだけぶりだろう。
やっぱり、うれしくて流れる涙は最高です。こんな面倒くさい奴だけど、これからもよろしくお願いします。」
「ぐびぃぃぃぃ〜。」 あっ!腹がなってしまった。。そうだ、今日は全く何も食べていなかったんだ。。
苗:「おなかすいてるの?おにぎり食べる?手作りだよ。どうぞ。」
先輩(おう谷圭子さんの母!である「苗 夏子」)から大きなにぎり飯をいただいた。
これがマジでベリィ〜デリシャスだった。あまりにデリシャスだったので、日記に書かせていただきました。
僕にはもうバドを愛する素直な笑顔が戻っていた。今日の出来事は大きく僕を人間としても向上させてくれた。
何かを好きになるということは、ものすごく危険なことである。
一歩間違えば大きな苦しみを味わうことになるのだから。
でも、大きな幸せを感じることもできる。人間はこれを繰り返して成長していくんだ。
そのとき、柱の影に隠れてこっちを見つめながら涙を流しているサンマークさんを見つけた。
カリスマだって人間なのだ。涙だって流れる。きっとサンマークさんも戻ってくるはずだ。さぁ、また一から出直しだぁ!
がんばるぞぉー!まずは基礎力のアップとパートナー探しだ!
これから数々の悲劇が訪れることになるだろうことなど、幸せ一杯の今の僕は知る由もなかった・・・。
※ この日記は事実を元にしたフィクションです。が、生まれて初めて観戦したバドの大会は本当に素敵で感動しました。
いつの日か必ず自分も…。
誰でも落ち込む日がある。
どう生きるべきか思い悩むときがある。
でも、その先を曲がれば素敵な出会いが待っているかもしれない。
ひるまず思い切ってやってみよう。
きっと元気になれるから!
(ブラッドリー・トレバー・グリーヴ『The Blue Day Book』より抜粋)
第10回へ続く
以上、バドミントン日記に戻る