3月29日(土) (晴れ)
早朝から仕事に追われてしまい、バドへの参上が危ぶまれる。しかし、復活してから初めてのバドだったので
何が何でも参加したかった。僕のブラインドタッチはいつも以上に速度が増し、奇跡的に午後2時前には完了。
すぐさま準備にとりかかり、愛車ラッスィ〜ンに乗車する。
午後2時、体育館付近まで来たが、人の数が激増しているではないか。
どうやらみんな僕のラッスィ〜ン納車祝いに駆けつけてきてくれたようだ。
うれしい限りである。ん?でも、どうもすれ違う人の視線がおかしい。ラッスィ〜ンなんて全く見ていない気がする。
その時、僕の視界にとってもとっても綺麗な桜が飛び込んできた。そうなのだ。今日は桜がとってもビューティフル。
みんなは桜を見にきているのだ。いかん、またくだらない話で長くなりかけている。。とにかく1時間の遅刻で登場。
うわぁあああ。すごい人だ。中学生たちもきている!信じられない!
どうやら高校は川浜に決めているようだ。
この春からマネージャーも新しく来てくれたようだ。西村カニ子&小杉林ケイ子だ。
ふっ、ここの部はマネージャーには厳しいぜ。心の中でそう叫んだ。
さてさて練習なのだが、軽くスウィングしてみたが体にしみこんでいるはずの僕のテクニックは影も形もなくなっていた。
むむむむむ?!懐かしい人物が練習しているではないか!!
しかも必要以上にドロップの練習を繰り返しているぞ。
完璧なラインを描くあのドロップテクニックは錆びることなく今も健在だった。みなさん、おぼえているだろうか?
第一回以来、久々の登場だ。そう、ドロップ角池くんである。
僕:「久しぶりだねえ。今までどうしていたのざ。」
ドロップ:「ずっと入院していたんだ。医者にしばらくバドはひかえるように言われててさ。でもこっそり病室で素振りしてたよ。
やっと退院できて、今日からまたみんなとバドができると思うとうれしくてうれしくて。」
ニコニコッと満面の笑顔がたまらない。
僕:「よっしぁー、ドロップ!やろうぜ!」
仲間が一人戻ってきた。こんなうれしいことはない。さぁ、今日から出直しだ!!
<第10回:友よ安らかに眠れ>
「この物語はある学園の荒廃に戦いを挑んだひとりの生徒の記録である。
バドミントン界において全く無名の弱体チームがこの生徒を迎えた日から
わずか数年にして全国優勝を成し遂げた奇跡を通じて
その原動力となった愛と信頼を余すところなく活字化したものである 」
今まで僕はトライの男性陣で最年少であったが、前回の練習で新記録が生まれたのである。
18歳だ。僕より10年も歩いてきた人生が短いのだ。
なんだか不思議な気分である。若いということは素晴らしい。
先のことをごちゃごちゃ考えずにどんどんがむしゃらにぶつかっていけるんだから。
歳を重ねていくと人間はいろいろな経験をする。そのためにどんなことでもある程度は先のことが予想できてしまう。
だから、どうせやっても楽しくないだろうし、無駄だろうと決めつけて何もせずに終わってしまう。
堅実な人間とも言えるが、そんな人間は美しくない。でも僕は以前は間違いなくそのタイプだった。
ある人に言われたことがある。人間は皆平等に歳を重ねていく。歳を重ねると誰でも肉体は衰えていく。
そして外見の美しさを失ってゆく。でも人間は歳を重ねるごとにどんどん美しくなることができるのだ。
何かを頑張っている人間は美しい。輝いているのだ。
人と付き合うのだって、前向きで頑張っている人間と付き合う方が楽しいし、プラスにもなる。
だから、あるときを境に僕は考え方を変えたんだ。悩むくらいなら絶対してみるべきだし、
失敗したってそこから必ず何か得るものはある。「なんであの時やらなかったんだろう」っていう後悔はもうしたくない。
後悔するなら「やらなければよかった」の方にしたいのだ。
それでも腰が極端に重い僕はなかなか動くことができない。だから、はったりの人生を送ることにしたのだ。
人生はったりだ。口からとんでもないはったりをかます。そのはったりを実現するために行動するのだ。
僕は言葉に責任を持ちたいという気持ちが人一倍過剰なため、はったりとして言った言葉でも、
何もしないで捨ててしまうわけにはいかない。
しかし、そんな思いが今、不器用な僕を苦しめている。とっても大きな苦しみだ。
今の僕には頑張らないといけないことがいくつもあるのだ。でも時間が足りない。
限られた時間の中で器用にやりくりできないのだ。どうしても全てが中途半端になってしまうのだ。
僕の欠点の1つである。
自分の中でそれぞれ微妙な優先度の高低はある。
時間が限られているからこそ、自然とその瞬間に優先度の一番高いものをやってしまうのだ。
バドももちろんその中の1つなのだが、現状バドよりも少しばかり優先度の高いものが存在するため、
気付くとどうしてもそこに時間をかけている自分がいる。でもバドもうまくなりたいし、定期的に練習だってしたい。
でも、なかなかトライ以外に時間を見つけてやることができない。
その気があればどんな状況でもやるはずなのだが、そうするともう1つの方が今度は中途半端になってしまうのだ。
悪循環である。7月の花園まで、もうあまり時間がない。ドロップも復活したし、上田勝もがつがつ頑張っている。
周りのライバル達がメキメキ上達している姿を見るとあせってしまう。
でも僕はそれ以上に時間の足りないものがたくさんあるんだ。あー、どうすればいいのだ。
ここ最近悩みつづけている。その時、いつもの笑顔で僕にドロップが話し掛けてきた。
ドロップ:「ねえ、何難しい顔をしてるの?バド楽しくないの?
何か悩み事でもあるの。俺でよければ相談にのるよ。」
僕:「ああ。ありがとう。ちょっと考え事しててさ。
ねえ、ドロップは楽しく頑張ってるのに、苦しいことってある?」
ドロップ:「そんなのあるわけないよ。だって楽しんだよ。楽しいのに苦しいなんておかしいじゃんか。
やっぱり何か悩んでるんだね。今日の夜、飲みにでも行こうよ。話を聞かせてほしい。」
僕:「わかったよ。ありがとう。うまく話せるかわからないけど、笑わずに聞いてくれよ。」
久々の会話を交わしたその時、コートの方からものすごいスマッシュの音が響いてきた。
誰だ?
視線の先には、高校卒業したて2人がいた。ともに新しい旅立ちである。
いっぱい失敗を繰り返しながら一歩ずつ歩んでいってもらいたい。そんな彼らに刺激された僕はバドで汗を流すことにした。
僕:「ドロップ、相手してくれ!」
ドロップ、スマッシュと練習は繰り返される。とても病み上がりとは思えないスウィングである。
よし、次はクリアだ。1回、2回、3回と打ち合う。4回目の僕のショットがミスになる。
ふわふわっと前の方にあがったシャトルを全力でドロップがかえそうと前進してくる。次の瞬間。
体育館中に大きな音が響き渡った。
「ゴンッ!!!!!」
僕:「ドロップ!!!大丈夫か!しっかりしろ!おい、俺の声が聞こえるか?おい!おい!」
ドロップが倒れたのだ。先ほどの音は頭と床を強打した音だったのである。
僕:「救急車を呼んでくれ!誰か早く!」
…………30分後…………
医者:「最善は尽くしたのですが…。狂豚病です。
彼は世界中の豚を食べてみようツアーに参加した際に病気をもらってきたようです。
運が悪かったとしか言いようがありません。彼はもう自分の命が残り少ないことを知っていました。
だから最後に一番大好きなバドをしたいと言いました。私は許可しませんでした。
でも彼の思いはとても強くて。最後は一日だけという条件付きで許可しました。
その一日でこんなことになるとは・・。私の責任です。」
頭をずっとずっと下げたままである。頭を下げられたからドロップが生きかえるわけじゃない。
僕は、ドロップが横になっている部屋に入った。ドロップはとても綺麗な顔で眠っていました。
僕の悩みを聞いてくれるって言ったのに。。久々にドロップと飲みに行くの楽しみにしてたのに。。
そして一緒に花園行こうって約束したのに。。
僕は花で溢れているベッドで彼の顔をすりきれるまでずっとずっといつまでも磨きつづけました。
枯れることなく涙は流れるのです。もう二度とドロップの笑顔が見れないと思うと。。
もっともっといっぱい話がしたかったです。畜生、また後悔です。
「馬鹿野郎!」
いつの間に病室に入ってきたのか、上田勝が突然発狂して殴ってきた。1発、2発と勝のフックをもらう。
勝:「泣くな!!泣いてどうなる!そんな泣き顔をドロップは見たくないはずだぞ!
ドロップは花園で優勝してうれしくて流れる涙を一番望んでるんだ。我慢しろ!」
真っ赤な目で勝はそう言った。強いな勝は。俺ってなんてだらしない男なんだ。こん畜生!僕は涙を必死にこらえました。
悲しいよ。どうすれば悲しくなくなるの。ドロップ教えてよ。つらいよ。
その時、机の上に恐らく書きかけであろう手紙が置かれているのに気づきました。
どうやらドロップが僕宛に書いてくれていたもののようだ。
「 親愛なる友へ
この間はお見舞いにわざわざきてくれてありがとう。すごくうれしかったです。
早く治してバドがしたいって心から思いました。でも僕はね、もうあと少ししか生きられないのです。
いっぱいいっぱい悩みました。苦しかったです。悩むことも時には必要だけれど、
今の僕は悩んでる時間がとってももったいなかったのです。僕は最後までバドをしたいって思いました。
たくさんしたいことはあったけど、やっぱり今の僕の一番大好きなのはバドミントンだから。
来てくれたとき、あなたは何となく元気がないように見えました。きっと何か悩んでいるんだね。
一生懸命生きてるからこそ、あなたは沢山の悩みをかかえるのです。
何を悩んでいるのかは僕にはわかりませんが、今一番したいことをいつだって一生懸命して下さい。
そうすればきっと答えが見えてきます。本当に一生懸命に2つのことをできる人なんかいません。
僕は一生懸命なあなたを見るのがとても好きです。ものすごくパワーをもらえます。
誰よりも遠くから、誰よりも大きな思いで、あなたのことを応援しています。
必ず花・・・ 」
ここで手紙は終わっていました。間違いなくこの続きは「園」だったはず。
ドロップは僕が相談する前からわかっていたんだね。
いつだって何も話さなくても僕のことを理解してくれるとっても大きな存在でした。
ダメだ・・。やっぱりこらえれないよ。涙がこぼれる。僕は本当に死ぬ気でなにかに取り組んだことがあるだろうか。
いやきっとないだろうと思う。僕は自分にすごく甘い人間なのです。
時間がない時間がないって理由をつけて自分を納得させて終わりにする。
こんな人間は腐ってる。
時間がないんじゃなくて、ただやる気がないだけだ。
本当に好きであれば、本当に大きな思いをもっていれば、たとえ時間がなくても寝なくても頑張るはずじゃないだろうか。
ドロップは死ぬまでバドをやろうとしていた。病室でこっそり素振りまでしてうまくなろうとしていた。
もう少ししか生きられないってわかっているのに・・。あなたはすごいです。
今までの僕のバドへの取り組みは甘かった。きっと僕には毎日何百回という素振りを続けることはできないと思う。
時間がないっていいわけをして。。でもね、ドロップ。そんな甘い僕に君の死はとってもとってもこたえました。
とってもとってもドロップの思いが心に染み込んできました。
このままじゃいけない!って心の底から思わせてくれました。
僕はバドを通じてすごく成長したと思い込んでいました。大きな勘違いだったようです。
この悲しみを乗り越えることで僕はまた一つ大きくなれるのだろうか。。
うぅうぅ、でもどうしてもどうしても涙が溢れてしまう。こんなにも悲しいのに何で我慢しなくてはいけないのですか?
我慢なんてしてられない。泣きたい時は思いっきり泣けばいい!僕はやっぱり自分にあまい男なのだろうか。
「おめぇは、何回言われたらわかるんだ!このボケが!」
ついに児三郎がぶち切れた。児三郎が延髄蹴りをうってきたのだ。それをまともにくらってしまった。
僕:「何で泣きたいときに泣いていけないんだよ!お前はドロップが死んじゃっちゃたのに悲しくないのかよ?
お前はなんて冷たい奴なんだ!前から言いたかったんだが、いつもニコニコして温かそうなふりしやがって、
くそくそ冷酷なくせして。くそ馬鹿野郎!」
僕はアックスボンバーをくらわした。しかし児三郎は倒れない。
児三郎:「だからお前は子供なんだよ。なんでもかんでも素直に感情出して生活できるわけねぇーんだよ。
このアホ!」
なんと児三郎はリキラリアットで応戦してきた。それをなんとかかわした。しかし、児三郎は素早かった。
すぐに足を僕の首筋にまわしてきたのだ。ん?この体制はもしや・・。やばい・・。卍固めだ!
児三郎:「どうだ!苦しいか!痛いか!ドロップはもっともっとツライ病気と闘っていたんだぞ!
それをお前はべそばかりかいて。ドロップじゃなくてお前が死ねばよかったんだ!もうお前とは絶交だ!」
畜生!言いたい放題言いやがって・・。あー意識が朦朧としてきた・・。やばい。。。意識がなくなる。
その後、児三郎が続いて叫んだ。
「こんな腐った野郎はおいといて、みんなで花園だぁー!
ドロップの分まで頑張るぞぉー!いくぞぉー!1・2・3・ダァー!!!!」
児三郎は完全に猪木になりきっていた。僕はこの大きな大きな苦しみを乗り越えることができるのだろうか?
自分という最強の敵をうちのめし、そして児三郎をトライから排除することができるのだろうか?
しかし、これからさらに大きな大きな友情を失うことになるのであった・・・。
人は「心のささえ」がなければ生きてゆけない
しかし「心のささえ」さえあれば
どんな事があっても歩いてゆける
君の「心のささえ」は何ですか?
僕じゃだめですか?
今日起こった出来事を一つ一つ話してくれる君が
僕の心のささえなんです。
(とある詩人のとある詩より)
<追記:人はなんて愚かなのだろう。罪のない人が戦って傷ついて・・。
憎しみは憎しみしか生まないのに・・。終わりはないのに。悲しいです。>
世界がぜんたい、幸福にならないうちは、個人の幸福は、ありえない。
(宮沢賢治「筑波日記」より抜粋)
『
ドロップ享年17歳(27歳) 安らかにお眠り下さい・・・、合掌
』
※ 恐らく彼が大爆笑している姿を見た者はいないはずである。
彼を心の底から笑わせることはできなかった自分はまだまだ未熟者である。
―第2章 完―